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さても今日も平穏なる日々

 さてもまた。
 暗い部屋の中で準備運動に勤しむ、我らがマスターをほうけた顔で見て、オレは大きくあくびをした。
 このマスター、暴力沙汰、それもまた人を殺すことに関してはとても優秀なのだが、それ以外はいかせんどうしようもない。
 炊事洗濯なんかはまあ、金の力でどうにかなるが、それ以前のなんだ、人が暮らすにあたって必要なルール。それがまったくきっかりこっかり欠けている。
 順番は守れない。いや本人は守っているつもりなんだが、守れていない。思い出すのも恐ろしい2日前、あの牛丼屋の支払いでオレ達の前に3人ほど並んでいた。ほんの数分待てばオレ達の順番はくるだろう。しかし、このマスターは、一人目が財布を開けてはイライラ。お金を払ってると、大きく靴を床に踏みつけ鳴らし、すわ2人目と言うときには、殴りかかろうとした。オレが吹っ飛んで事なきを得る。
 ボタン式のキャッシュでスペンサーを見つけたと思ったら、あと少しで機械ごと指の形に穴を開けるとこだった。機械は逝かなった、オレの手のひらに穴が飽きそうだった。今でも黒くこげている。
 そういやオレの格好で、外を出るのは食事に出るのはまずいよね。ということで、服を買いに。当然夜中に空いている店なんかは無い。気づいたら、既に閉まっている激安服屋のウィンドウにひびを入れかけてた。ちょっとオレの頬が切れている。うん、今でも血が止まんねー。ちょっとやばいかも? オレ。
 まあ、そのときはオレがマスターの服を借りて、24時間営業の服屋に買いにいきましたよ。ああ、よかったオレが少し背が低くて。まあ、ケツが余ってウエストはきっついんだけどな。オレの格好のまま街中で、買い物や食事をするわけにもいかないだろう。ああ、なんてオレ小市民。復讐のサーヴァントじゃなかったっけ? オレ。なんで、現代人のマスターより現実社会に適応してるの?
 と、まあ日常を嘆いていても腹は減る。
 マスターはいつもの服装で、オレは購入してきたジーパンと、パーカーのフードを目深に被り、食事に出ているわけなのだ。
 もちろん合理的、迅速性をもっとも重んじる我らがマスター、バゼット・フラガ・マクミレッツ様はいつもの牛丼屋に足を向けるんだが、
「なあ、ちょっと飽きねー?」
 とのオレの言葉に、別の店を探すことにした。この胃袋も鉄の女も、毎日同じ食事は飽きるのである。ま、この前の毎日カロリーメイトも飽きたらしいしね。一応普通の人だってことだ。かなり鈍いだけで。
 そんなことを考えるうちに、足は新都へ。ここしか深夜に食事が出来るような店はない。
 マスターは、お気に入りの赤と黄色のジャンクフードを探す。こんな時間にそんなのは閉まってるって。あるのは、24時間営業のコンビニ、牛丼屋。コンビニはわびしいからやだなー。食う場所もないし。オレが店の前でコンビニ袋なんて広げていたら、立派な金の無いロックスターである。スターは金があるから、ただの貧乏ロッカーか。うわ、寂しい。
 あと、思いつくは居酒屋か。
 軽く腹ごしらえをするにはいいだろう。毎日肉と炭水化物ばっかりじゃ栄養も偏るし……と考えて少し悲しくたそがれてみた。
 そんなたそがれているオレを気にかけることも無く、マスターは、
「何をしてる、早く来い」
 なーんて、のれんをかき分け小さな店に入っていった。
 店は、小さいながらも活気がある店で、目が細く猫のエプロンをしたねーちゃんが、いらっしゃいませーと大きく声をはりあげる。
 あー、あれもマスターと同類か。いや、あっちの方が手ごわそうだ、そう思いながら角の席に腰を下ろす。周りは酒の臭いで充満してて、なれないマスターは居心地悪そうに身を細くしていた。いつもは態度がでかいから、たまにはそんなんでもいいんじゃね? と言ったら、足をしこたま蹴りつけられた。いて、いててて。マスター、あなたの蹴りはしゃれになりませんってばよ。
 そうしているうちに、注文が。取りに来たのは、オレンジ色の髪の少年だった。真面目そうな顔。オレとはまったく育ちが違いそうなのに、こんなところで未成年がバイトなんかしちゃいけませんよー、なーんて年の功で説教したくなるが、それはやめておく。
 少年は、ジョッキを抱えせわしなく動く。まったく平和な平穏な日常。それに感謝しておくんだぜ、そんな声もかけたくなる。こっちは、暴力マスターのお守りで、毎日暴力、迷惑、死傷沙汰。時折オレ達も死ぬけどねー。
 なーんて。
 平穏な日常の大切さなんて、平和が過ぎ去ってから分かるもの。
 オレは、その少年には何も声をかけずに食事いそしむ。
 咀嚼してるのかわかんないマスターは、5分もかけずに完食を繰り返し、30分もたたずにご馳走様だ。
 さーて出ましょう、人殺しにまいりましょー。
 「ありがとうございました」
 さっきの少年が、多分にいつものようにオレ達に頭をさげる。
 そのままさっさと帰ればよかったんだけどね。
「あ、そうだ」
「はい?」
「美味かった」
「あ、ありがとうございます」
 ぱっと顔が明るくなる。接客業の嬉しさは、お客様にお礼の言葉を直接いただける事だってな。
「また、な」
「はい、お待ちしております。ありがとうございましたー」
 きっと少年は、またこの居酒屋に来ることだと思っているだろう。
 でも、うん、違う。
 今度はどういう形で会うんだかなー。そんなことを思いながら、オレ達はまた人殺しのために夜に繰り出した。