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月を孕む(習作)

 カレンが衛宮亭にやってきたのは、もう小雪もちらつき始めようかという頃だった。
 しかし、カレンが尋ねてきたのは、どちらかと言うと寮母となっている影の薄い主人ではなく、最後に居候となり、滞在期限は1週間と限定がついていたにもかかわらず、まだ居座っている女魔術師であった。
「孕んだの」
「は?」
 どっかと畳に座り、主人の入れたお茶を一口含むと、修道女はそっけない口調でそう言った。
 修道女と孕む。それはなんとも遠い言葉か。清廉純潔であるべく神に仕えている修道女が何たること。しかし、この娘の口から出てもあまり違和感はない。唐突である以外は。「誰……の?」
 そして、その言葉からかなり遠い位置にいそうなバゼットは、その一言をどうにか振り絞るのが精一杯であった。
「さあ、ね」
 にやりと口の端を吊り上げて、ちらりと横目でバゼットをみやる。その動作はあまりにも人の神経を逆なでするものであった。
 普段はそのまま死体を作成していそうなバゼットであったが、どうやら拳を握り締めるだけでこらえたようである。この期間に彼女も成長したようであった。  バゼットも茶を一口。いや半分ほど流し込む。ほう、と深呼吸をして人を殺しそうな目でカレンを見やった。
 そこに流れるのは緊張感。台所に一人立つ衛宮士郎は、息を潜めて二人を見ている。そして、ここに住むかしましい娘たちがいなくてよかったと、ほっと安堵の息を漏らした。
「来年の夏には産まれるらしいわ」
「父無し子を」
「そう」
 だから何? そう言いたげにカレンはそっけない返事を返す。
「産まなくてもいいかと思う。修道女の子。父無し子」
「私が産むんだからあんたに言われる筋合いはないわ」
「……そうだな」
 バゼットの声も苛立っている。どうも倫理的に彼女が産むのを反対しているようでは無く。何か、別の。
「何か言いたそうね」
 バゼットを促して、カレンは自分の腹部をさすった。愛しい者をなでるように、何かに呪いをかけるように。
「その子が幸せになるとは限らない。もしかしたら不幸になるかもしれない。もしかしたら親を殺すかもしれない、もしかしたら……」
 言葉が小さくなっていく。
「別にいいの」
「は?」
「別にいいのよ。私が私のエゴで産むんだから。産みたいから産むだけ。もしかしたら私が愛しすぎて狂わすかもしれない。私を殺すかもしれない。愛せないかもしれない。でもいいの、産むだけだから」
「そう、か」
 少しだけ困惑と安堵の顔をして、バゼットは半分残ったお茶を一気に飲み干した。
「で、誰の子?」
「……言うの忘れてたわね」
 そしてちらりと台所でどうしたらいいかと、所在なさげにたたずむ主人の顔を見た。
「私は色が白いから、肌が黒かったからそうね、上手く混ざって……そうね。あそこで所在なさげにしてる人にそっくりになるんじゃないかしら」
「なにーーーー!」
 勢いで、障子が開き、かしましい娘がなだれ込んできた。何があったの! 不潔です先輩! マスター最低です。……。ちょっと話してみなさいお姉ちゃんに! などなど、まったく女何人寄ってもかしましいものである。
 悠々とカレンはお茶を飲み干し、衛宮亭を後にする。産まれる子は産まれる子。好きなように生きればよい。しかし、復讐の従者の子よ、私のようにどうか幸せに、と。



 こういうテーマは難しいですね。一回出してから再度同じテーマで話を作り直すかと思います。