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あなたがここにいてほしい

 シーツを握ってのた打ち回る。痛みは最高潮で、どうやったらこの痛みが引くかしか考えられない。一瞬だけ痛みが引く間に浮かぶのは恨み言。どうして女に生まれたのかしら。
 ウェーブがかかった髪はぐちゃぐちゃ。お肌はぼろぼろ。こんなの人になんて見せられない。でもこれは、月に一回あるお約束。こんな痛みがまだマシなくらい、出産は痛いと言う。こんなんなら子供なんていらない。子宮を取って。そんなことも浮かぶくらい。
「ねえ」
 息も絶え絶えの喉から出るのは、誰かがここにいて欲しいと願う言葉。こんなこと、あのうるさい弓の騎士がいるときは、絶対に出せなかった。パスでつながっていて、鷹のように鋭いあいつのことだ。何も言わなくても、私が懇願の声を出したことを聞きつけているだろう。
「ああ、もう」
 なんでこんなときに桜はいないのかしら。この館で唯一この痛みが分かる相手だ。セイバーは生理が来る前に成長が止まってるっぽいし、ライダーはけろりと、私にはありませんとそう言った。そして、恐ろしいことに我らが藤村先生は、
「え、一日で終わっちゃう。痛くないわよ。ちょっと脱水気味になるから、水分多めにとるけど」
 なんて憎たらしい言葉を漏らしやがった。神様あの虎に鉄槌を。いや、鉄槌なんて良い。この痛みだけそっくりタイガーに渡しやがれ!
「ふ、ふふふふふふ」
 シーツをつかみ、くぐもった笑い声を出す。こんなの学校でなんか絶対見せられない。アイツにも。絶対。
 そんな、心がどす黒い時の癒しは桜だ。桜もかなり重いらしく、月に一回のた打ち回っているのを見る。しかし、アイツの前では絶対にその兆候を見せず、おもいっきり我慢してから私の前で痛みに苦しむのだ。素晴らしきかな乙女心。と言う私も、意地で絶対に見せないけどね。
「う、ううう」
 しかし、こういう時に愚痴を言えるのは桜なのに、今日はライダーと共におでかけをしてしまった。どうやらかなり前から約束してあったようで、私も強くは引き止められなかった。セイバーはこっそりサッカーボールを抱えて出て行って、藤村先生は実家に戻っているよう。
 そう。
 今は、アイツとこの家に二人きり。
 絶対にこの姿は見せられない。
 朝ご飯は気力で耐えた。一瞬貧血で食らっときたけど、この遠坂凛様がそんなみっともない姿を見せるはずはない。
 お茶の時間は、研究といって逃げた。
 そして、昼前。
 この痛みを抱えて、私はどうやってあいつの前に出ようか。そんな事ばっかり考えている。
 「うー」
 頭ががんがんしてきた。
 目がくるくる廻る。
「寝よ」
 痛みでどうでもいいような感じがしてきた。うん、寝よ。寝てこの痛みを忘れよう。お昼の時間も忘れよう。起きたら多分痛いけど、寝ている間は幸せだ。
 うん。おやすみなさい。
「おやすみなさい」
 そう言って、私は目をつぶる。人の多いこの家は、挨拶には全て返事が返ってくる。ここは私しかいないけど、返事が返ってこないのは寂しいな。そう思って、目をつぶった。

「あ、起きたか?」
「は、はい?」
 霞がかった目の前にはアイツの顔があって、私の顔を覗き込んでる。
「昼になっても全然返事がないから、失礼かなと思ったんだけど入った」
「な、な、な、なんで」
 その理由はほんのちょっと前に聞いている。でも私の口からはその言葉しか出せなくて。
「大丈夫? 風邪か?」
「ちがうわよっ!」
「じゃあ、食べすぎ?」
「私をセイバーと一緒にしないでよ」
「じゃあ?」
 そんなこと言えるわけない。言ったら私も恥ずかしいし、コイツも恥ずかしいだろう。だから、私はうつむいて、ただ時が過ぎるのを待っていた。
「……」
 長い沈黙。
 多分、1分もたっていないんだろうけど。それでも、永久のときのように感じて、
「そ、か。うん、悪かった。メシできてるから、起きれるようになったら居間に出てこいよ」
 と、立ちあがる。
 ああ、なんか寂しいなあ。なーんて。そんなことを思ってしまった。これはきっと、月に一回の呪いのせい。うん、そうだ。きっとそうだ。だから私は言ってしまった。
「あのね。私、ちょっとお腹が痛いの」
 きょとんとして立ち止まって小首をかしげて、そしてとても心配そうな顔をした。
「いつもなら、桜とかセイバーとかいるから、寂しくないんだけど」
「うん」
「ねえ」
「ああ、俺も寂しいなーと思ってたんだ」
 と。
「女の子の部屋にいるのはなんだけど、この時間一人でいるのは寂しい」
 もう一回椅子に座って。
「だから、嫌じゃなけりゃ、少しいてもいいか?」
 う。なんでコイツは、人の心に敏感なのかしら。いつもなら私は拒否するのだけど、今は月の呪いに私はかかっているの。そう、私に言い訳して。
「そうね。ちょっとだけ。ちょっとだけ、喋りましょう」
 タオルケットをお腹に巻いて、私は壁にもたれかかる。
 うん、これは月の呪い。痛みと引き換えの寂しくない呪いなんだ。そう言い訳して、お茶を入れてくる、そう言った士郎の帰りを待った。



 士凛なのでしょうか。甘ったるい話を目指してビターチョコレートな感じです。