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秋の空に遠足を

 衛宮士郎は、冷蔵庫を開けて顔をしかめていた。
 食材が、ない。
 いや、無い事はない。一人分ならこれで十分だろう。しかしセイバー昼に満足させられるかといったら、難しいかもしれない。
 藤ねえやライダー、桜に凛が出かけていて本当によかった。これで全員そろっていたら、いやもうこれはまったく足りない。あわてて桜に買出しに行ってもらうしかなくなる。
 しかしその買出しも、金銭がなくてはどうにもならず、現在学生アルバイト中の衛宮士郎の給金が、銀行口座に入るのは明日であった。
 もちろんしっかり者の士郎がお金を切らしているわけは無く、生活費の入った財布には今日を生き延びる分のお金がちゃんと入っていた。しかしそれは桜の手に渡っている。別に脅されたとかそう言うわけではなく、本日夜の食材の購入を新都に出かけている桜に託しただけであった。
 それに、最悪藤ねえに借りるという方法もある。最悪にして最低の方法なのだが背に腹は変えられない。ああ、さすが社会人。すぐに給料を使い切るとはいっても、この館の住人の夕飯の材料ぐらいはまかなえる小金は持っているのであった。その藤ねえは実家に戻っているのだが。
「あちゃー」
 誤算と言えば、お昼の分の食材があると思っていたこと。いや、チャーハンくらいなら簡単に作れるのだが、ここ最近チャーハンが続いていて、セイバーはもちろん士郎も食傷気味だった。
「なんかこう、体に優しいものが食いたいよな」
 ここ最近、桜と凛、そして士郎の意地が加わって、衛宮亭の食卓はどんどん豪華になっていった。それはそれで、特に食い意地のはった女性陣にはいいのかもしれないが、普段から清貧を心がけているこの館の主人にはかすかに違和感もあったのだ。
 質素でも美味しいご飯。それでも良いんじゃないかとおさんどんをしながら士郎は思うことがある。焼いた魚に煮物をつけて、箸休めに何かつくだに、そして炊きたてご飯と味噌汁。それが正しい日本人の姿なのではないか? しかし、今冷蔵庫にはそんな魚もない。
「どうしようか」
 と、一人ごちて窓を見る。おりしも今は秋。どこかで声が聞こえる。小さな子供の声。どこか幼稚園の子供が遠足に行くのかしらん? と、ぽんと手を叩いて士郎は食事の支度を始めた。

「セイバー、ご飯だぞー」
 廊下で声を張り上げる。
「はい、士郎」
 わくわくどきどき。毎日期待を胸にセイバーはきらきらした目をして、士郎をみあげる。こんな目をされると、やっぱり豪華になっていくよな。なんて思った。
「お、セイバーちょうどよかった」
 よいしょ、と士郎は鍋を持ち上げる。その反対の手には風呂敷包み。セイバーにポットを渡し、さてと移動を開始し始めた。
「シロウ? 居間に行くのではないのですか?」
「あ、うん。今日はちょっと趣向を変えて」
 目の前にある大きな庭に降りて、セイバーも来いよと促す? 小首をかしげながらセイバーはポットを持って降りてきた。
 レジャーシートをばさっと広げ、そこに鍋と風呂敷包みを置いた。
「シロウ? どうしたのですか。こんな所で」
「ん、遠足」
「遠足?」
「そう、遠足。さっき、子供たちの声が聞こえたんだ。そういえば遠足のシーズンだなあと思って。俺たちはここの留守を守ってなくちゃいけないから出かけられないけど、雰囲気だけは味合わないか?」
「はあ。それよりもシロウ、遠足とはなんなのですか?」
 あ、そっか。と、士郎はタッパの蓋を開けた。中にはおにぎりがぎっしりと詰まっている。もう一つは、玉子焼き、そしてたこさんウインナ。
「遠足ってのは、お弁当を持って遠出してお弁当を食べること。だから、今日のお昼は由緒正しい遠足メニュー」
「これが、日本の由緒正しい遠足メニューなのですか?」
「うーん。正しくは俺の思う遠足メニューかな」
 鍋の中には豚汁がほこほこと煮えていて、それを士郎はおわんによそった。
「しかし、なんと素晴らしい。外で食べるご飯は格別です」
「そうかな? いつもよりわびしい食事で悪いんだけど」
「いいえ」
 と、セイバーはおにぎりをぱくり。
「食べる人のことを思って作る食事は、何よりも素晴らしい。士郎、私は毎日素晴らしい食事を頂いておりますよ」
「そっか」
「ええ。だからおかわりを下さい」
 いつの間にやら飲み干したのか、豚汁のおかわりを希望する。それによそい直しながら、士郎はこんな一日もいいなと思うのだった。



 衛宮亭のご飯って豪華すぎやしないかなーと思って考えた話し。
 相手のことを思って作られたご飯は、栄養吸収がとてもいいらしいと、何処かの本で読みました。