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すなのねむり

 あの大爆発がおこってから、わたしはずっとここに立ってます。いつも空は赤くて、彼方には不気味な塔が立ち、うおおおんっていう唸り声もあがっているけれど、不安感はありません。
 もう日にちの感覚もありませんが、不思議とお腹はすきません。立っているのも疲れません。ですから、もしかしたら、あの日から全然時間はたっていないのかもしれません。
 でもわたしはあの日から、ただ人の言葉をオウム返しに返すことしかできません。大体の人は、わたしのことを気味悪がります。でもあの大爆発(大熱波というのだそうです)が起こってからは、みんな気味悪い人ばかりなのでおあいこだと思います。今近くにいるのは、首の長い男の人と、袋に入ってしまった女の子だけですが、二人とも自分の世界に入ってしまっているので、話したこともありません。
 まあわたしも、自分の世界の中に入っているということでは同じでしょうか。なにしろ大熱波前は、人と話すのがとても苦手でいつも黙っていましたので。ですからわたしがこういう姿になったのも、当然ということなのでしょうか。
 そういえば、いつの日かカンオケを背負った男がわたしの隣に立っていました。ぼうっと風に吹かれています。
「ああいやだ。またあの塔が歪んでやがる」
 そしてわたしの方を見て、にっと笑います。
わたしもにっと笑い返して「そうね」と言いたかったのですが、その男の言葉を返すことしかできませんでした。カンオケの男は、そんなわたしをみて、悲しそうな顔をちょっとだけして、ぐりぐりとわたしの頭をなでると自分のねぐらへと帰っていきました。
 ときおり黒髪の青年もやってきます。彼もわたしと同じく自分の言葉を発することができないようです。でもわたしは彼の言葉を発します。それはいつもだいたい同じこと。罪の意識、恐怖、疑問。いつもそればかりでうんざりします。だってその心の痛みは、わたしの中にも同じように入ってくるのですから。わたしはそういう痛みには鈍感な方ですが、それでも毎日毎日、そんな罪の意識ばかりだと嫌になってきます。ときおり、わたしは涙をこぼします。これは彼の痛みでしょうか。それとも彼の痛みを感じた、わたしが流す涙でしょうか。


 いつのまにか、首の男は消えてしまいました。袋の少女もいなくなってしまいました。わたしも消えるまではいかないけれど、それでも身体が半分土に埋まっている様子。土の中は暖かいのですが、身動きが取れないのがちょっと困ります。
 カンオケの男は、わたしをひっぱりだそうと無駄な努力をしていますが、そんなことはもうどうでもいいのです。どうしてこの男はこんなことをするのでしょう。
 そういえば、あの青年の来る回数も少なくなっています。わたしが埋まる前はよく来ていたのですが、いまはもうあまり見かけません。でも、彼の心を見るのは辛いので、こなくてもいいやという気分はあるのですが、やはり来ないのは少し寂しいです。
「つらいの?」
 そんなことを思っていると、どうやらあの青年がまたやってきたようでした。気持ちが、心の中に流れ込んできます。どうやら青年はわたしのことを心配しているみたいです。どうしてでしょうか。つらいのかどうなのかさえよくわかりません。わたしはいったい、どんなことを思っているんでしょう。それすらもわかりません。
「殺してあげようか?」
 言葉は感情のかけらもありません。
 でもなんとなく嬉しいのです。殺してくれるのですか。わたしをですか。ああ、それは良いですね。だって、なにも考えることができないのですから。赤い空に立ちつづけるのは飽きました。人の心を読むのも飽きました。貴方の痛みを負うことさえも。人の心を模倣するのも。どうぞどうぞ殺してください。ええ、どうぞ。
 青年は剣を振り上げます。わたしは逆光を浴びて光っているそれを、じっとみつめています。剣は天まで上がります。しかし、それがわたしに振り下ろされることはありません。どうしたのでしょう。ふとみるとあのカンオケの男が、青年の手首をしっかと握っています。 いつのまにか青年とカンオケの男は、口論をはじめています。わたしの口から、それが次々と発せられます。
でもそんなことはもういいのです。わたしはただ眠りたいのです。

ただゆっくりと、夢さえも見ずに。


 角女ちゃんは本当は老婆らしいのですが、私のバロックの中では、かあいい女の子です。