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落日

 因果なもんだ。とテッドは思う。その手にソウルイーターを宿し、子供のままの姿で、世の中に潜むように渡ってきたこの数百年。最初はこの変わらない姿を忌避し、人里はなれた山奥でひっそりと住んでいたこともあったが、やはり人恋しさは捨てきれず、人里におり、人と人の隙間に潜むように生きてきた。
 長い長い旅の途中、いくらかかわりを避けようとも、人との付き合いは生じてくる。テッドの運命や生きてきた歳月は知らねども、身寄りのない戦争孤児にしか見えない彼に、差し伸べてくれる手は、やはりあった。それらはいつもは記憶のふちに沈んではいるが、時折きれいな水色の記憶の沼からゆっくりと昇ってくる。
 最初は孫を無くした旅芸人の老爺だった。歌をうたい踊り語り旅をした。宿屋の女将もいた。少年ばかりのスリを生業とする集団にいたこともあった。どこかに在る、ということは、居場所があるということはとても心地よい感覚だった。もちろんそれよりもはるかに多い辛い記憶もあるが、それらの優しい、心地よい記憶はテッドを絶望の淵へと追いやることをしなかった。
 ただ、その居場所はすぐになくなるのだった。いや、故意になくしたというべきか。最初は老爺の寿命が尽きた。スリの子供たちは大人となっていった。女将は、殺された。ソウルイーターを狙うものの手によって。
 彼の居場所は彼の運命によって、絶たれていく。魂を食らう紋章と、それによって彼が不老不死となったがために。
 彼は今のんびりと歩いている。川原の土手は青々とした草が方々に生えていて、テッドはそれを靴先で何度か蹴った。煌々と光をたたえて落ちていく真っ赤な夕陽が、テッドの目を射った。
 手首を切り落とそうと思ったこともあったっけなあ。左の手のひらを苦笑をたたえ見つめながら、彼はもう一度土を蹴った。
 ほんの子供だった頃、まだソウルイーターの運命の重さに耐え切れない頃は、このまま年をとったならば、心もまた老人のものになるのかと思っていた。だが、確かに少しは老成したが、それでも外見が少年のままのせいか、それに引きずられているのだろうか、あまり変わったような気がしない。世の中の汚さも、暗黒面もしっかり見てきた。だが絶望はしていない。
 あいつらもそうなんだろうか。テッドは思う。世界にある真なるの紋章。それの継承者たちはどうなのだろう。もう数百年も生き、蠢いている彼ら同胞。若い容姿に心もそうなのか、それとも長い年月に引きずられ朽ち果ててしまっているのか。
 ああ、と声が漏れる。妄執にとらわれ、それにしがみつくことしかできないのが老いなのだと。
「ウィンディ」
 テッドはそう呟く。瞳を閉じる。自分の村を滅ぼした彼女を恨んでも恨みきれないが、妄執に突き動かされ、ひとつのことしか見えない彼女が、目的を達したらどうなるのだろう。それは自分の終わりでしかないが、彼女も終わってしまうのではないかと。
「テッドー!」
 向こうから、バンダナをかぶった少年がかけてくる。テッドの腕を取り笑いかける。この少年も成長し大人となるだろう。その前に自分は少年から離れなくてはならない。でもこの少年と過ごした日々も、また美しい水色の記憶の海の沈むだろう。
 グレミオのシチューがね。そう笑いかける少年に、ああ楽しみだねと笑い返しテッドはきた道を戻り始めた。
 離れていくときはそう遠くはないけれど、少年が大人になり、子をもうけ、老いていくのを時折見にくるのも楽しそうだ。少年には普通の人生を歩んで欲しいものだ。そう思いながらテッドは、少年の顔で、笑った。


テッド+少し坊ちゃんな話。幻水1は3年前にクリアしたので、かなり話忘れてしまっています。かなり話忘れてしまったので、もし間違いがあっても、笑って見逃して下さい。