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ウタヲウタイツヅケ

「そのこころはやみをはらうぎんのけん。ぜつぼーとかなしみのうみからうまれでて」

「おいおい、ののみ。軍歌はないだろう。せめてスイートディズにしてくれよ」

 瀬戸口はののみを肩車している。ののみは細い足を抗議のようにゆらす。

 ののみは瀬戸口の頭をしっかりとつかみ、そしてくしゃくしゃにしてしまう。

「でもこれはおとーさんのうたですよ。だからののみはうたうの」

 今は学校の帰り道だった。訓練と仕事で、ふらふらになって校門を出て行くののみを拾い上げたのは、瀬戸口だった。なにか歌ってくれよ。その呼びかけに答えて、ののみが歌いだしたのはガンパレードマーチだった。 「でも楽しい帰り道だぜ」

「タカちゃんは、おとーさんのうた、いやですか?」

 悲しそうな声が頭上から降ってくる。裏も表も無いその声に、少しだけ胸が痛んだ。

「嫌じゃないさ」

「じゃあよかったの」

 足をばたつかせ、ののみは歌を歌い続ける。時折響く大砲の音で声がかき消され、そのたびにののみは歌をやめ、顔を引きつらせて、耳をふさいだ。

「怖いか?」

「いいえ」

 耳をふさぎ、目をしっかとつぶり、ののみは首を横に振る。その必死の様子がいとおしくて、瀬戸口は片手をののみの小さな頭に置いた。

「大丈夫だ。俺が守ってやるから」

「ほんとう?」

「本当だ。俺は嘘は言わないからな」

 嘘つきだ。とののみには聞こえない小さな声で。それも大砲の音が消してしまう。

「ふえぇ。うれしいなあ」

「そうか」

「うん」

 瀬戸口が赤い空を仰ぐように見る。

「戦争はいつ終わるんだろうな」

  出撃出撃出撃。そのたびにこんな小さな女の子が、誰にもわからないように身体を震わせながら、それでも精一杯背筋を伸ばして、仕事をこなすのを瀬戸口はいつも見ていた。徴兵年齢は十二歳以上じゃなかったか?

 こんな小さい子が。いつも聞こえないように瀬戸口はぼやいていた。

「みんながやめたいとおもったらだいじょうぶよ」

「幻獣はやめたいと思っているのかい」

「げんじゅうは泣いているのよ。しこんごーも泣いているの。くるしいって」

 ばたつく足を抑えながら、また瀬戸口は問う。

「戦いしかしらない俺たちが、戦争が終わったらどうするんだろう」

「だいじょーぶよ、タカちゃん」

 ののみが満面の笑みを浮かべる。それを瀬戸口は見る。根拠なんかひとつもないのに、何故だか大丈夫な気がしてくる。

「ののみはみんなだいすきなの。タカちゃんも舞ちゃんもあっちゃんもしょーたいのみんなも」  ののみの小さな手が、くせが強い瀬戸口の茶色い髪をかき回す。

「だからね」
 小さい手が額まで降りてくる。あたたかい。

「なかないでください」

 小さな温かい手が、瀬戸口の紫の瞳を閉じる。頬に何か冷たいものが落ちたような気がした。俺も幻獣のように泣いているんだろうか。瀬戸口はただ、ののみの歌を聞いていた。生きている重みを肩に感じつつ。

*

 死を呼ぶといわれる、絢爛舞踏の、その服をまとい、彼は、泣きながら、泣いている幻獣を切り続ける。

 乗っている、絢爛舞踏用の士魂号も泣いている。

 誰もが見とれるその動き、鮮血が舞う戦場の中、彼は目を閉じ思い出す。少女の言葉を。

  一刀両断にした幻獣の血が舞う中、その動きは、その殺し方は。

 

 とても美しかった。